左利きと右利きが共感する社会づくり
社会学/健康福祉科学/デザイン工学から左利きの存在を考えてみる
当協会で実施したアンケートにご協力いただいた皆様に深く感謝の意を表します
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当協会に参加する大学生3名(2026年3月卒業)による卒業論文の概要について
日本左利き協会のチャットルームには、老若男女、利き手の左右を問わず、左利きひいては利き手に関心を示す人々が参加しています。そんななか、2026年3月に四年制大学を卒業した3名が、左利きにかんする卒業論文に取り組みました。
ここでは3名による卒業論文の概要等をご紹介いたします。なおプライバシーの関係上、2名の氏名については匿名をさせていただきます。紹介については、事前に当協会で設定した質問事項に沿って掲載いたします。
ちなみに、これらの卒業論文を作成するにあたり、当協会のウェブサイトやSNS等をつうじて多くの方々からアンケートにご協力いただきました。この場を借りて深く感謝の意を表します。
今後も、学位論文や中高校生の探究学習等にかんしましては、可能な限り協力いたします。ますます左利きひいては利き手に対する関心が社会をつうじて深まることを祈念いたします。
※今回ご紹介する卒業論文概要は次のものとなります(順不同)。
- 「非右手利きのマイノリティ意識の変化」(Mさん)
- 「左利き者の生活経験と利き手をめぐる社会環境の歴史的変化」(Uさん)
- 「工夫を誘発するユニバーサルデザイン原理 -左利きの製品使用を手がかりに-」(竹内悠晟さん/本論文は日本人間工学会関東支部第55回大会にて「卒業研究発表会・発表奨励賞」を受賞)
A / B / C それぞれを以下にて列挙いたします。
A. 卒業論文のタイトル
「非右手利きのマイノリティ意識の変化」
1 氏名:Mさん(プライバシー保護につき匿名)
2 在籍大学および学部・学科:立教大学社会学部現代文化学科
3 卒論の概要あるいは目次:
本研究は「⾮右⼿利き」の⼈々に焦点を当て、彼らが⽇常⽣活の中でどのような経験を重ね、どのように社会的⽂脈の中で位置づけられてきたのかを明らかにすることを⽬的とする。
調査では、⾮右⼿利きの⼈々が幼少期から現在に⾄るまでに経験してきた利き⼿の「矯正」に関する記憶、ならびに家庭や学校、職場といった様々なコミュニティにおいて抱いてきた利き⼿への意識や葛藤に着⽬する。聞き取り調査を通じて彼らの利き⼿をめぐる語りを収集しそれらを分析することで、⾮右⼿利きの⼈々がいかに社会においてマイノリティとして位置づけられ、またどのように社会に適応してきたのかを考察する。
4 当協会をとおして実施したアンケートのねらい:
日頃から非右手利き(左利き、両利き、クロスドミナンス)のマイノリティ性を意識して生活している当事者の方々が多くいらっしゃると考えたため。
5 当協会をとおして実施したアンケートの回答から得られたこと:
アンケートの分析方法については筆者の知識不足により不十分な箇所もあるが、全体の傾向として年代別に非右手利きのマイノリティ意識は変化していることが明らかとなった。10代から70代と幅広い世代の方々から回答をいただくことができ、非右手利きが社会の中でどう扱われてきたのか、本人にとって非右手利きという身体的特徴はどういうものなのかなどを分析することができた。
6 卒論に取り組むことで知った、左利きの存在を考えるうえで今後大切と考えるキーワード(複数回答可):
価値づけ、個性、共感
7 これから卒論や探究学習等に取り組む人々へのメッセージ:
日常生活の中でふと気になったことや疑問に思ったことを卒論のテーマにすると、研究も楽しく進められると思います。
私自信は左利きですが、幼少期から誇りと不便さのどちらも受け入れながら生きてきました。そのような自分の経験を、調査を通して言語化するのが楽しかったです。
B. 卒業論文のタイトル
「左利き者の生活経験と利き手をめぐる社会環境の歴史的変化」
1 氏名:Uさん(プライバシー保護につき匿名)
2 在籍大学および学部・学科:早稲田大学 人間科学部(通信教育課程)健康福祉科学科
3 卒論の概要あるいは目次:
卒業研究では、左利きの人が経験してきた生活上の不便さや心理的影響、そしてそれを取り巻く社会的認識の変化について検討しました。アンケート調査では、矯正経験や左利きに対する認識などについて尋ね、世代差を中心に統計的分析を行いました。あわせて、インタビューや身近な製品・公共設備の観察を行いました。
4 当協会をとおして実施したアンケートのねらい:
私自身も左利きであることから、左利きの方々のさまざまな経験について理解を深めたいと考えました。左利きは人口の約1割とされていることもあり、寄せられた回答をもとに傾向を見ていければと思いました。
5 当協会をとおして実施したアンケートの回答から得られたこと:
回答からは、左利きに対する社会的認識は世代を経る中で変化していることがうかがえました。一方で、生活環境は依然として右利き中心であり、左利きが環境に適応しながら生活している状況もみられました。
6 卒論に取り組むことで知った、左利きの存在を考えるうえで今後大切と考えるキーワード(複数回答可):
社会の基準、適応と工夫、ユニバーサルデザインの可能性
7 これから卒論や探究学習等に取り組む人々へのメッセージ:
左利きというテーマは一見すると限定的に見えるかもしれませんが、実際には社会の多数派・少数派の関係、環境の構造、歴史的背景など、多くの視点につながるテーマでした。身近な経験から生まれた疑問が、社会のあり方を考えるきっかけにつながることを学びました。日常の中にある違和感や疑問に目を向けることが、研究の出発点になるのではないかと思います。
C. 卒業論文のタイトル
「工夫を誘発するユニバーサルデザイン原理 -左利きの製品使用を手がかりに-」
1 氏名:竹内悠晟さん
2 在籍大学および学部・学科:芝浦工業大学デザイン工学部デザイン工学科
3 卒論の概要あるいは目次:
左利きの人は、右利き社会の不便をただ我慢せず、持ち方を変えるなどの独自の工夫で乗り越えています。 私はこの工夫を調査・分析し、その思考を誰もが使える、発想支援カードというツールを制作しました。これを使えば、誰でも多様な状況を想像して物事を考えられるようになり、より創造的で安全なモノ作りが可能になります。この手法を用いた実験では、柔軟なアイデアが次々と生まれることが実証されました。
4 当協会をとおして実施したアンケートのねらい:
本研究は左利きユーザーのみを対象としておりますが、人口全体における割合が少ないため、学内のみの調査では統計的分析に十分な母集団を確保することが困難な状況にあります。左利き協会の会員様やフォロワー様にご協力をいただくことで、短期間で質の高い調査を実施することが可能になると考えたためです。
5 当協会をとおして実施したアンケートの回答から得られたこと:
左利きユーザーが工夫を行う際の心理状況といった定性的情報に加え、工夫のバリエーションや、どのような条件下でそれらが誘発されやすいかといった定量的情報など、多角的なデータを収集することができました。
6 卒論に取り組むことで知った、左利きの存在を考えるうえで今後大切と考えるキーワード(複数回答可):
クロスドミナンス、一側性優位、フランダース利き手テスト
7 これから卒論や探究学習等に取り組む人々へのメッセージ:
左利きに関する研究は、対象者が人口の約10%と限られているため、個人で進めるには困難な側面もあります。しかし、自分自身の特性を深く知ることができるという点において、非常に意義深く、興味深い分野です。
当事者ならではの視点から着想を得られる研究テーマは数多く存在します。日常で感じた違和感や気づきをきっかけに研究を進めることで、意外な発見や驚きに出会えるはずです。左利き協会の方々も非常に協力的に接してくださるため、ぜひ積極的に挑戦してみてください。
※追記:
本卒業論文は日本人間工学会関東支部第55回大会にて「卒業研究発表会・発表奨励賞」を受賞しています。
なお、当協会では「右利きと左利きが共感し合える社会づくり」という観点から、様々な境遇に置かれた多くの人々に対応できる「ユニバーサルデザイン」の普及を強く主張しています。が、そのいっぽうで右利き優位の社会だからこそ芽生える「左利きならではの不便益」についても、肯定的に捉えています。
こうした左利きの側面を右利きの方々に知っていただいたうえで、忘れてはならないこと。それは「病気や事故で右手の自由を失った人々へのサポート」です。以上を踏まえたうえで、竹内悠晟さんが卒業論文に取り組まれた概要について追記し公開いたします。
[※注]
※以下の概要については芝浦工業大学のウェブサイトより転載いたしました。
https://www.shibaura-it.ac.jp/headline/award/20251223_7070_005.html
研究内容
私自身の左利きとしての実体験を起点に、左利きユーザーが右利き用製品を使用する
研究内容
私自身の左利きとしての実体験を起点に、左利きユーザーが右利き用製品を使用する際に行う工夫の構造を解明し、デザインへの応用を提案する研究です 。調査により工夫を10パターンに分類し、物理的制約の少ない製品ほど工夫が多様化することを明らかにしました 。これに基づき、ユーザーの自由な発想を支援する「不便軽減原理」と、デザイナーの新たな発想を支援する「アイディエーションカード」を提案しています。
研究目的
本研究の目的は、左利きユーザーが日常生活で右利き用製品に対して無意識に行っている工夫の構造を、ユーザー・製品の両面から解明することにあります 。従来のユニバーサルデザインが追求してきた「なるべく多くの人にとって使いやすい製品の提供」という受動的な解決策にとどまらず、ユーザー自身が不便をきっかけに新しい使い方をひらめくような「発想を支援するデザイン」の可能性を探求しています 。最終的には、デザイナーが多様なマイノリティの視点を取り入れながら自由なアイデアを生み出すための具体的な原理やツールの確立を目指しています。
今後の展望
今後は提案した原理やツールの有効性を実験で定量的に検証するとともに 、他のマイノリティ特性へも対象を広げ、ツールの汎用性を高めていきます。本研究の成果をデザイン現場で活用することで、マイノリティの視点から新たな価値を生み出せる、より創造的な社会の実現に貢献したいと考えています。
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