左利きQ&A

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小笠原流の礼法家による左利きへの見解と礼儀作法のあり方を読めば一目瞭然です。

 


 
とある日、日本左利き協会スタッフが左利き関連のツイートを閲覧していたところ、こんなツイートに遭遇しました。
 
「マナーとして左手でお箸を持つことはダメらしい
 もう少し左利きに優しくして........お願い........
 
このツイートには、話題となる礼儀作法本をスマホで撮った写真が添付されていました。なんと、その本には、悪いお箸の持ち方の例として「つかみ箸」や「交差箸」等の他に「左手箸」がイラスト入りで紹介されていたのです!

残念ながら本のタイトルを知ることはできませんでしたが、こうしたツイートは左利きにとって由々しき大問題。
 
そこで当協会としてはツイッターをとおして「左手箸」がマナー違反なのかどうかを問うべきと考えました。また、この問題について1ツイートのみでは説明することは到底無理ですので、いくつかに分けてツイートしました。
ちなみに最初のツイートを以下に引用しておきます。
 
「[左手で箸を持つのはマナー違反?!]お箸を持つ歴史は日本でも1000年以上!西洋のナイフとフォークの歴史より数百年以上古い! 食事は右手という根拠を東洋の古典に求めると、儒教の『礼記』(内則篇)に「子どもが自分で食べられるようになったら右手で食べるよう教えなさい」とあった!」


つまり東洋で礼儀作法の原点をさかのぼると「左手で食べることは礼儀作法に反する」とも言えます。インドや中東諸国のような食と便を左右の手で区別することとはことなるとはいえ、『礼記』そのものは紀元前に編さんされたもの。
 
ならば左手箸が現代の礼儀作法として悪いことなのか? ちなみにツイッターでのコメントはかなり要点のみのツイートでしたので、ここではもう少し詳細に解き明かしてみます。
 
 
 
 

まず知りたいことは左手で箸を持つことはマナー違反なのか?!

 
日本左利き協会発起人の一人である大路直哉は自身が左手箸。左手で箸を持つことが礼儀作法つまりマナーに反するのかどうかを確認すべく、かつて自著『見えざる左手』を出版するにあたり、小笠原流総領家第32代世主の小笠原忠統氏(故人)にインタビューしています。



詳細をご紹介する前に、小笠原忠統氏による左手箸の見解について以下に記します。
 
「左手に箸を持つことは礼儀作法に反するのですか?」(大路)
 
「箸につきましては、左利きで左手でお使いになればよいのです。
 現代の常識からしてみれば、左利きを無理に矯正するするなんて、むしろ非常識です。左利きは悪いことではありませんから、年長者はとがめないように。左利きの人にもあるがままに生活してほしいと思います」(小笠原忠統氏)
 

 

 
 
 
 

礼儀作法には時代の常識を取り入れることが大切


そもそも礼儀作法とは誰のために身につけるものなのか。時代によって変化するものなのか。
悩みより専門家のご意見を!ということで、引き続き、小笠原忠統氏(故人)のインタビューをご紹介します。
 
「礼儀作法とはどういうものですか?」(大路)
 
「礼儀作法とは、自分を飾るためのものではありません。相手に不快感を与えない動作を身につけることです。
 よく、たったひとつの作法で、あらゆる相手と対処しようとする人がいます。本人は正しいことを習って完璧だと思っているでしょうが、じつは礼儀知らずにすぎません。それこそ、他人に対して自分をよく見せかけているだけなのです。一度覚えた作法に固執するのは、不精者のすることです。
 そのときどきの常識にそった礼儀作法を取り入れるよう、心がけてください」(小笠原忠統氏)
 
「そのときどきの常識」を左利きに当てはめると、先にご紹介した小笠原氏の見解と言っても過言ではないでしょう。左利きに対して寛容となっているのであれば、礼儀作法として、いかに左利きが左利きとして振る舞うべきかを今後は問うべきです。
 
 
 
 

左利きを考慮したおもてなしも礼儀作法である

 
では社会の常識が「左利きで寛容である」とすれば、左利きと接する人の「おもてなし」はどうあるべきか? この問題についても小笠原忠統氏(故人)のインタビューからひいて見ます。
 
「食卓で、左利きの人へのもてなしはどうあるべきですか?」(大路)
 
「食事をもてなすとき、左利きの人の顔に“左手で箸を持ちます”などとは書いてありません。ですが、左手で箸を持つ人だとわかっているのであれば、左手で持ちやすい世に箸を添えてあげます。これも相手に対する礼儀なのです」(小笠原忠統氏)
 
自分を飾るためのものではなく相手に不快感を与えない動作を身につけること。つまるところ左利きをめぐる礼儀作法とは、利き手の左右に関係なく「左利きが置かれた状況への相互理解」も含まれるのです。 
 

 握りお寿司は右手でつまみやすいように並んでいたりしませんか?

 

結論:左利きと礼儀作法をめぐって心がけたいこと

 

  1. 自分を飾るためではなく相手を不快にさせないことが礼儀作法の基本。つまるところ左利きをめぐる礼儀作法とは、利き手の左右に関係なく「左利きが置かれた状況への相互理解」が大切。 

  2. 私たちが生きる時代の常識を知らずして礼儀作法を知ることはできない。左利きを認めるのが現代の常識なのであれば、左利きに対して配慮することが現代の礼儀作法である。左利き本人もそうした配慮があればハッキリと感謝すべき。

  3. 礼儀作法やマナーを取り上げるメディア関係者や教育者の方々には、常に利き手のことを意識していただきたい。

  4. 礼儀作法において左利きの存在が更に認められるよう、左利き自身、右利き以上にマナーへの意識向上を心がけたい!

 


 
 

[引用および参考文献]
『見えざる左手』大路直哉,三五館,1998年