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左利きを取り巻く状況は右利きよりもストレスがかかりやすいとは言えるものの、諸説ありますのでご紹介します。

※イラストはイメージです。

 
『左利きは危険がいっぱい』
 
というセンセーショナルなタイトルの邦訳書で話題となった「左利き9年短命説」。性別で比較すれば、男性は10年、女性は5年、左利きは右利きよりも短命のこと。
 
著者であるカナダの神経心理学者スタンレー・コレンは、共同研究者らとアメリカ・カリフォルニア州住民の死亡診断書をもとに、近親者から得た故人の利き手や死因等を分析した結果、「左利き9年短命説」を結論づけています。
 
ちなみにコレンは、左利きが短命である理由として次の2点を挙げています。
 

1.健康面
アレルギーやアトピーといった免疫疾患や、重症筋無力症などの自己免疫疾患、そして反社会的な行動が右利きと比べて左利きが多い。
※ただし、こうした見解について左利きとの関連性が低いとの報告も少なくない。

2.環境面
右利き優先の社会ゆえに左利きが多くの危険にさらされている。

 
また高齢者に左利きが少ないのは上記のような左利きにとって不都合な要因があるからだとしていますが、古い世代ほど利き手の矯正が頻繁に行なわれていたことについて、コレンは否定的でした。
 
こうしたコレンの自説について統計上の誤りがあると指摘する専門家の反論は少なくありません。ここでは京都大学名誉教授・坂野登氏の著作から引用して紹介いたします。
 

    • 「外にあわわれた現象から自説にあった結論を出すことがいかに危険であることか」
    • (坂野登著『しぐさでわかるあなたの「利き脳」』日本実業出版・1998年より)

 
そもそも平均寿命は女性よりも男性の方が短いですし、男性は女性よりも仕事等で危険にさらされるケースが多いこともいえます。
 
以上はさておき、さらにコレンは「左利き短命説」の後ろ盾とすべく、わたしたちの身近な必需品ともいえる自動車事故の原因についても言及しています。
 

左利きの人は
自動車事故を起こしやすい?!

 

左利きは咄嗟の急ハンドルで右手を上にするので事故が多いとコレンは指摘するが…

 
カナダの神経心理学者スタンレー・コレンは、「左利き9年短命説」の有力な裏付けとして「左利きの人は自動車事故を起こしやすい」と報告しています。
 
なぜ彼がそう主張するのか、以下にあるイラストを見ながら説明していきましょう。
 

右側通行の国では左利き、左側通行の国では右利きの方が事故率は高いのか?!

 

まず、自動車を運転中に対向車とぶつかりそうになり、ビックリしてとっさにハンドルを切るときの動作を想像してみてください
 
コレンによれば左利きのドライバーは「右手が上で左手が下になる」。つまり「ハンドル操作では左側に切る」と分析しています。
 
余談ですが、この分析の裏付けをとるために彼が行なった非公式な実験は、科学者としては「お粗末」というべき内容でした。大学のキャンパス内で、学生に不意をつくがごとく「いいかい!」といってゴム製のボールを鼻めがけて投げたそうです。その結果、左利きの約70%が「右手を高く上げて顔を防御し、左手を下にした」とのこと。その結果、ハンドル操作でも同じような動作をすると結論づけたのです。
ちなみに、この実験、襲われたと悲鳴をあげた女子学生でキャンパスが騒然となり、程なくして中止とあいなったようです。
 
話をもとに戻しましょう。コレンが想定した事態は、
 
「右側通行の国々では、運転する車がセンターラインを飛び出し、他の車両を巻き込むような大事故を起こしやすい」
 
というものでした。
 
ただ、この理屈を左側通行の国々当てはめてみたら……
 
左利きよりも右利きの方が大事故を起こしやすい、とも考えられます。実際、コレン自身の調査によれば、左側通行の国(英国・アイルランド)の方が右側通行の国(大陸ヨーロッパ諸国)よりも事故発生率が高いとの結果が出ています。
 
だからと言って左側通行の国・日本では左利きの方が運転に有利かと言えば、そうは問屋がおろさないというのが実情です。フットペダルについては、オートマチック車全盛の昨今では左足によるクラッチペダルの操作をする機会が少なくなりましたし、左手によるシフトレバーの操作もマニュアルシフト車に比べれば、ドライブレンジに入れておくだけで運転できます。
 
自動車の運転席そのものは、やはり右利きの方がメリットが多いと言わざるを得ない現実があります。そんな利き手の左右が問われることすら解消される自動運転化が進む過渡期だからこそ……
 
自動車のみならず、左利きがストレスにさらされやすい設備や機器を開発・デザインする方々には、是非とも「インクルーシヴ(包括的)」な視点から生活環境の改善を念頭に業務へと携わっていただきたいものです。
 
意識と無意識いずれもが感じる左利きならではのストレスを減らすことで、「左利き9年短命説」は一時代の杞憂(きゆう)と化すことでしょう。
 
そもそも「左利き9年短命説」が世に流布されたのは1990年代前半のことですから。
 



[参考文献]
・『左利きは危険がいっぱい』(スタンレー・コレン著/石山鈴子訳 文藝春秋 1992年)
・『左ききでいこう!』(フェリシモ左利き友の会・大路直哉=編著 フェリシモ出版 2000年)
 


 

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