左利きと右利きが共感する社会づくり
上着やズボンのファスナーの引き手は右手で持つものと思っていたのに……右利きだからこそ「大きな違和感」を感じてしまう体験について、自らの実感を交えながら語っていただきます。(書き手:フリーライター・垣貫由衣)
※前編・後編と二回に分けて掲載しましたが、読みやすさを重視し一話完結としました。
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利き手の揺らぎ・その1「ゴルフウェアの違和感から、洋服における“利き手”を考える」
数年前、ゴルフショップでアディダスのゴルフウェア(ボトムス)を購入した時のことである。値下げ商品で一点しかなかったため、「サイズが合えばラッキー」くらいの気持ちでひとまず試着してみたのだが、その際にどうにも違和感を覚えてしまった。ズボンを履くといういつもと同じ動作であるはずなのに、いつもと何かが違う。いったい何だろうと考えてみると、中央部分のファスナーが、普段履いているものとは左右逆に付いている。つまり、いつもならファスナーを右手で上げるところを、その商品は左手で上げなければならなかったのだ。ズボンを履くという動作があまりにも自動化されすぎていて、気づくのに時間を要してしまったが、違和感の正体に「なるほど」と納得した。筆者は普段パンツスタイルが多く、これまでどれだけのボトムスを所有してきたかわからないが、このパターンのファスナーに出会ったのは人生初だった。
パッと見ただけではわからないが、よく見るとファスナーの位置が左右逆になっている。
このパターンが人生初ということは、これまでのものはすべてファスナーが右手で上げられるようになっていたということである。それゆえに違和感がなかったのだろうが、洋服も実はその多くが右利き仕様になっているということに改めて気づかされた出来事だった。
ちなみに、くだんのボトムスのタグには「インドネシア製」との表記があり、海外製品だから仕様が逆になっているのではと考えたが、メーカーからはとくに明確な回答は得られなかった。
では同じように、他の洋服では左右はどうなっているのだろう。普段あまり意識したことはないが、例えば前合わせの洋服なんてまさに利き手が関係するのではないか。ここでは2つの例を挙げて考えてみようと思う。
まず1つ目は、前ファスナー仕様の洋服。
ファスナーの「蝶棒」と呼ばれる部分を、向かって右側にある「箱」で受ける仕様を「右挿し」、その逆を「左挿し」と言うらしく、日本では多くの場合、右手で蝶棒を箱に挿して、左手でファスナーを上げる右利き仕様になっている。これが、まれに左挿しになっていることがある。主に、海外製品の場合だ。
調べてみたところ、左挿しの製品がとくに多く見受けられたのは、アメリカ発祥のブランド(ナイキ、コロンビア、アンダーアーマーなど)だった。アメリカは日本に比べて左利きの割合が多いからだろうか。ただ、多いと言っても、右利きを上回るほどではないと考えると、利き手云々は左挿しの理由としてはちょっと弱い気がする。
では他のものはどうだろうか。日本とアメリカで左右が違うものは……と考えてみたところ、ものすごくわかりやすい例があった。車のハンドルの位置や道路の通行の位置である。日本は右ハンドル・左側通行だが、アメリカやヨーロッパ諸国では左ハンドル・右側通行の国が多い。それらが逆であることを考えると、ファスナーの左右が違うのも納得できる気がする。
ただ、ヨーロッパでもイギリスは日本と同じ右ハンドル・左側通行である。一説には、日本の右ハンドル・左側通行にはイギリスの影響があるらしい。となると単純に、イギリスは右挿しの製品が主流ではないかと考えてしまうが、実際どうなのだろう(わかる方教えてください)。
結局のところ、国によって慣習や利き手をめぐる状況が異なるため、服もそれに合わせて仕様が異なるということだろうか。
2つ目に、シャツやカーディガンなど、ボタンが付いている洋服。この場合、一般的には男性用と女性用で前合わせが左右逆になっている。女性用はだいたい着る人から見て左側にボタンが付いていることが多い。慣れているため普段はとくに何も思わないが、右利きからすれば左右が逆である。デザインによっては時々前合わせが逆のものがあり、動作がしやすいことでハッと気づく場合がある。
そもそも、左利きと右利きとで分けるなら、右利きが多ければ男女関係なく右利き仕様のデザインになるはずである。現に、和装の場合は右利きを想定して、男女ともに右前で合わせるのが決まりとなっている。では、洋服の前合わせが男女で異なるのはなぜだろうか。
これは、西洋の貴族社会において、女性が服を着る際、使用人に着せてもらっていたことからきているようだ。つまり、使用人が右利きであることを想定して、ボタンが付けられているのである。男性用の服のボタンが右側に付いているのは、男性は自分で服を着るから。男女で前合わせが左右逆になっているのにはそのような背景があったのだ。
しかし、もう何百年も前の様式が、現代でも踏襲されているというのは興味深い。当時のように、日常的に服を誰かに着せてもらうシチュエーションというのはそうそうないだろうから、どこかの時点で転換期があったとしても不思議ではないのに。
ただ、女性用であれば、とくに左利きの方にとっては動作がしやすいのではないかと思う。右利きであっても、服を着るという動作は毎日のことで、もはや自動化されていると言っても過言ではないけれど、ふとした時に不便を感じることもある。以前、ボタンが通常より多いデザインのカーディガンを着ていた際にはさすがにイーッ!となって、自動化とはならなかった。
また、そういえば、と思い出し、引っ張り出してきたのが以下のカーディガンである。
ロゴがあるこちらが表になると思われる。
裏はちょっと奇抜な色味のボーダー柄。たしか、ゲゲゲの鬼太郎っぽくてかわいかったので即決だったはず(理由……)。
いつ頃だったか忘れてしまったが、たしか母に買ってもらったリバーシブルのカーディガン。リバーシブルなので、裏返すとボタンの位置が逆になる。右利きと左利き、どちらも味わえてちょっとおもしろくないだろうか。ちなみに、どちらも味わってみたけれど、右利き仕様の方にやや不便を感じたのはどういうことだろう。慣れというのも大いにあるだろうが、片手でボタンをはずすのは、もはや左手の方がやりやすいのである。服を着ることに関しては、両利きの人もいるかも?とふと思ったのだった(ちなみに、久しぶりに着てみたけれど、ちゃんと似合わなくなっていて悲しい……)。
[参考文献・サイト]
・アパレル資材研究所 &CROP「アパレルメーカー必見!ファスナーの右挿しと左挿しの違いと発注方法」2024年8月6日公開
https://media.cropozaki.com/solution/zipper-right-left/
・日本左利き協会/左利きQ&A「シャツやブラウスのボタンと利き手」
https://lefthandedlife.net/faq005.html
・ところ変われば、時代違えば/世界と日本「アメリカ、日本と逆のファスナー」2020年12月11日公開
https://otonary.com/2020/12/11/japanamerica/
・MOBY「左側通行の国と右側通行の国一覧まとめ|その違いが生まれた理由は?」2023年3月6日公開
https://car-moby.jp/article/car-life/useful-information/country-left-hand-traffic-right-hand-traffic/
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執筆者紹介:
垣貫由衣(かきぬき ゆい)