左利きQ&A

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イギリスで中世の農民の遺骨を調査したところ左右差が見られ、その結果、現代よりも、少なくとも中世の農民の間では左利きに対して寛容であったとの見解があります。

 

 
利き手のほうが非利き手よりもサイズ的によく発達する……。こうした見解は学術的にも雑学的にもよく語られる話題です。

このコラムをお読みの方でもすぐチェックできる特徴があります。爪の大きさを左右の手で比較してみてください。利き手の爪のほうが非利き手よりも大きいのではないでしょうか。
 

筆者の手の親指。同じ距離から左右の手を並べていますが、こんなに爪の大きさが違います。ちなみに私は左利きです。


ところでイギリス北部のある教会墓地において、11世紀から16世紀に埋葬された農民の遺体を調べた興味深い結果報告があります。これはイギリスの科学雑誌『ニューサイエンティスト』に紹介されていたものです。

利き手(利き腕)に関する記事なので、かいつまんでご紹介します。

記事によりますと、考古学者らが、80体の遺体、とくに左右の腕の骨の長さをもとに「利き手(利き腕)」を調べました。その結果、左腕のほうが右腕よりも長い遺体、つまり「左利き」であったと考えられる割合は16パーセント。また、左右両腕が同じ長さであった遺体も3パーセントでした。つまり非「右利き」と考えられる割合は19パーセントだったというのです。
 
現代では「左利きは10パーセント」という調査結果が多く報告されることを考えれば、80人分の遺骨とはいえ、明らかに左利きが多く存在したという一つの事例といえます。
 
この数値から、学校教育や宗教的な道徳観に縛られていなかった中世の農民は、「左利き」であっても「矯正」という外部の圧力を受けていなかったのではと、考古学者らは考えています
 
いっぽうで教育やマナーが厳しかった上流階級の遺骨について同じような調査を行なえば、かなり数値に差が出てくる可能性があります。

宗教や教育の力は、人間を「右利き」に導く重要なはたらきを果たしたと考えられるかもしれません。さらにこうした分野での見解をご紹介していきたいと思いますので、今後もご注目ください。
 
■参考文献

  • Georgina Ferry「Yorkshire churchyard tells a sinister story」 『New scientist』1995年9月26日号