左利きQ&A

 A 005 :
左手が器用に使えると有利な職業のリストをご紹介します。

 


 
20世紀初頭に「両手利き文化協会」という友愛団体がイギリスで誕生し一世を風靡したことをご存じでしょうか?
人類の大多数は右利き。そんな右利きへの意識改革として利き手でない「左手」を使う訓練をしよう。そうすれば、バランスのとれた左脳と右脳の発達を可能になる。仕事の能率があがる。人間個々の能力だけでなく国益をも増進する……等々。AI(人工知能)が人間の労働を奪うとまでささやかれている昨今においては該当しない主張があるものの、「右利き優位の社会」に一石を投じる左手教育構想が世に問われたのです。
ちなみに、この協会のスローガンは「左手への公正と平等」。また、発起人であるジョン・ジャクソン自身、左利きは左利きとしての天分を生かすべきだとし、左利きは「右利き優位 の社会」において「右手」を使う機会が多く両手利きの要素を持ち合わせている、と考えていたようです。
ここで断っておきますが、当協会では「右利き優位 の社会」だから「両手利きになったほうが便利」だなんて決して主張することはありません。左利きが左利きとして住みよい社会の到来を切に願っていますが、いまだ「右利き優位 の社会」に生きる左利きなのです。だからこそ周囲の環境によって右利き以上に両手利き的な要素を育みやすい状況下に置かれている現実を否定することはできない、と仮定しておきます。

以上はさておき、かのジャクソン、『両手利き』なる本を1905年に上梓しています。その本のなかで私が関心を引いたことが2つ。

1つめは、ジャクソンが日本の工芸品にえらく感激して「日本こそ両手利き文化の模範」と絶賛したこと。その是非はともかく、「知日派」の一面 をのぞかせていました。

2つめは、「右利き優位の社会」のなかで両手利き――「右手」だけでなく「左手」が器用に使える――が有利かつ有益な職種(スポーツ・商業を含む)の一覧表です。驚くことなかれ。その数ざっと504職種。よくもまあこれだけ根気強く紹介したものです。
 
ここではスペースの都合上504職種まるまるの掲載を差し控えますが、現代の日本社会においても馴染みのある職種をご紹介いたします。

「左手が器用に使えると有利な職業」

(1)アコーディオン奏者/(2)助産婦・産科医/(3)会計士/(5)役者 (7)飛行士/(9)アナリスト/(10)解剖学者/(13)弓術家/(14)建築家 (16)芸術家/(17)天文学者/(18)アスリート/ (20)耳科医/(26)パン職人/(27)指揮者/(28)理髪師/(33)野球選手/(42)自転車競技選手/(43)ビラ貼り人/(45)鍛冶屋/(48)接骨医/(49)製本業/(50)靴職人/(55)ボクサー/(62)煉瓦積み職人/(68)肉屋/(70)家具師/(77)大工/(82)運送・郵便配達人/(87)レジ係/(92)客室係のメイド/(94)狩猟家/(95)薬剤師/(98)カイロプラクティック/(103)事務員・ホテルの受付係/(114)コメディアン/(115)植字工/(119)曲芸師/(121)調理師/(122)酒屋(酒利き)/(123)調理師/(125)書生/(128)記者/(137)室内装飾/(139)歯科医/(140)デザイナー/(144)調剤師/(147)ダイバー/(150)仕立て屋/(153)運転手/(156)ドラム奏者/(159)編集者/(160)電気工事士/(163)エンジニア/(165)整備士/ (166)彫刻師/(167)清書係/(170)版画家/(170)農民/(171)獣医/(175)バイオリニスト/(177)消防士/(179)漁師/(184)花屋/(185)山林学者・森林官/(191)庭師/(194)地質学者/(202)ガラス工芸家/(218)ガイド/(222)体操選手/(224)美容師/(229)ハープ奏者/(253)漆職人(Japanner)/(257)騎手/(259)ジャーナリスト/(260)手品師/(296)マタドール/(308)坑夫/(310)モデラー/(313)登山家/(314)ミュージシャン/(320)看護婦/(325)オペレーター/(326)眼科医/(331)オルガン奏者/(348)写真家/(349)医師/(350)ピアニスト/(353)調律師/(381)リポーター/(413)看板屋/(440)外科医/(441)測量士/(448)教師/(449)通信技師/(453)テニス選手/(468)ろくろ師(陶芸家)/(470)タイピスト/(477)バイオリン奏者/(499)ライター(作家)

 
ここで割愛した職種(つまり全体の5分の4)のほとんどは手先の器用さを要求される「職人」的な仕事です。その他ユニークな職種として「バーのホステス(女性バーテンダー)」といったものがありました。また「ゴルファー」もあげられていましたが、ゴルフコースのほとんどで右打ちでの球道が考慮されているため、左打ちという観点からあえて除外させていただきました。
いかがでしょう。もちろん、現代的な職種が見当たらないのはやむをえないとしても、おおよそ私たちの周辺で確認することが可能な職種も多々あるはずです。さまざまな職業に就く読者からのご意見もうかがいたいところです。
 
余談ですが、フランスでは職業と利き手に関して政府レベルでの調査研究が1960年代に行なわれたようです<※注1>。日本でもそういった調査が政府レベルで行われる日がやってくることを、楽しみにしたいものです。 
 

<注1>
1962年、政府や医師会、そして多くの大規模労働団体(組合)からの公的な支援を受け、職務における左利きの現状に関する質問調査を、フランス労働省が行ったという。その結果 、少なくとも150万人の左利きの作業労働者がフランス国内に存在する、と試算。職種別 調査によれば、左利きの割合は、医師・9%、歯科医師・13%、バイオリン奏者・8%、ピアニスト・10%だったという。いずれも両手を器用に使えることが有利となる職種といえる。一方、服飾産業では3.4%(注:女性のみ)と低率。調査対象者全体では、左利きの男性は11.2%、女性は9.1%だった。


[参考文献]
・Jackson,J.Ambidexterity,London:Kegan Paul Trench,Trubner & Co.Ltd.,1905
・Paul, D. Living Left-handed, London:Bloomsbury Publishing Ltd.,1990
・『リーダーズ英和辞典』研究社